『箸休め』 起きて半畳寝て一畳
若いころは大きな家が欲しいと思っていた。
住宅展示場で見る広いリビングには随分と憧れたものである。
そして、それなりの家にも住んできたが、最近では家は小さい方がいいなと思うようになった。
その理由の一つとして、数年ほど前に、上野の東京国立博物館で開催されていた「北京故宮博物院200選」を見に行った時に印象に残ったことがあったからである。
商時代の玉や青銅器など、数々の名品が展示されていたが、私が一番興味を覚えたのは、中国史上、屈指の名君と称えられた乾隆帝の書斎であった「三希堂」を原寸大に復元したものであった。
三希というのは、王羲之の「快雪時晴帖」、王献之の「中秋帖」、王珣の「伯遠帖」という世にも稀な宝のことである。
乾隆帝は、この三つの宝を自らの書斎に飾ったわけであるが、何よりも驚くのは、その書斎の小ささである。
(写真は東京国立博物館HPより)
わずか8平方メートル、つまりは、ほぼ四畳半しかない。
故宮は72万5千平方メートルあるというから、「三希堂」は、宮殿全体の10万分の一の空間にしか過ぎない。
勝手な空想だが、清王朝の全盛期を出現させた乾隆帝であっても、本当に寛げたのは、この四畳半の空間だけだったのではないだろうか。
「起きて半畳、寝て一畳、天下とっても二合半」という言葉が、自然と頭の中に浮かんできた。
茶室などもそうであるが、四畳半くらいの広さが人間の身の丈にあった、もっとも心地よい空間なのかもしれない。