天下の小論

其の詩を頌し、其の書を読み、其の世を論ず 東洋古典の箚記集です

『晏子春秋』 出来ないことを悩むより出来ることを考えよう

西洋でも東洋でも、火星は不吉な星ということになっている。

ある時、その火星が空に現れた。

 

不安を感じた景公は、晏子に「何とかできないか」と尋ねた。

晏子の答えが、実に素晴らしい。

 

「来させることが出来るものは、去らせることができる。来させることが出来ないものは、去らせることが出来ない」

 

火星を動かすことは出来ないが、政治を良くすることは出来る。

火星のことを心配するよりも、政治を良くすることを考えたらどうだ、これが晏子の景公への諫言である。

 

現代人でも、ここまで合理的な考え方をする人は少ないのではないか。

 

私たちは、自分にどうしようもないことで悩む。

卑近な例でいえば、急いでいる時に、人身事故で電車が動かない、などといった場合である。

 

どうしよう?どうしよう?と焦るが、いくら焦ったからといって、どうなるものでもない。

駅員に食って掛る人もいるが、駅員を怒鳴ったからといって、電車が動く筈もない。

 

想いは実現する、などといった世迷言の成功法則を信じるのも、同じ精神構造である。

主観的な希望だけで、客観的な事実が変わることは有りえない。

 

目標に向かって、一歩一歩と進むしかない。

 

試験に合格させて下さい。就職に成功させて下さいと、神頼みするのも、同じ精神構造である。

神社仏閣に願い事をしに行く暇があったら、勉強した方がよい。

 

僕は神や仏の存在を一概に否定しようとは思わない。

ただ、もし存在するとしたならば、それは人間が仕える対象であって、あれをしてくれ、これをしてくれと、我儘な願いを求める対象ではないと、考えている。

 

何はともあれ、人の努力だけで全てがうまくいくものではないが、人間が出来るのは努力だけである。

 

出典(明治書院)『晏子春秋 上』谷中信一著 124頁

景公異熒惑守虡而不去晏子諫 第二十一

 

可致者可去、不可致者不可去。

致す可(べ)き者は去る可(べ)く、致す可(べ)からざる者は去る可(べ)からず。

 

 


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