『管子』 「今度、飯でも食おう」って言う人は本気なんだろうか?
始めて会ったばかりなのに、親しそうにしてくる人間とは付き合わない方がいい。長い間会っていなくても、こちらを忘れない人間とは付き合った方がいい、という。
それほど親密でもない人から、「今度、飯でも食おう」とか「今度、誰それを紹介してあげよう」とか言われることがある。
こういったことを言う人は、大概、世間的に偉いとされている場合が多い。 しかし、実際に、そういったことがあった例はほとんどない。
だから、こちらも、それほど期待はしていない。いわゆる社交辞令と捉えている。
ところが、言ったことをきちんと実行した人がいる。
田中角栄である。
随分と昔に読んだ本に書いてあったことで、書名は忘れてしまったが、田中が初めて大臣になった時、若手の官僚たちに対して、
「今度、飯でも食おう」
と声をかけた。
官僚たちは期待などしていない。多くの政治家が、同じようなことを言いながら、実際には行われないからである。
ところが後日、田中の秘書から連絡があり、その約束は本当に果たされた。驚いた官僚たちは、田中を信頼するようになったという。
考えてみれば、「今度、飯でも食おう」と言って、飯を食いに行く、なんてことは誰にも出来ることである。 誰にも出来るが、多くの人がやらないだけである。
多くの人がやらないから、誰もが期待しない。
しかし、期待していないことが起きた時、その感激は、思う以上に大きいのである。
人生はこういったちょっとした事柄の積み重ねで成り立っている。
出典 新釈漢文大系『管子 上』37頁 形勢第二
未之見而親焉、可以往矣。久而不忘焉、可以来矣。
未だ、これを見ずして焉(これ)に親しむは、もって往くべし。久しくして、これを忘れざるは、もって来るべし。